法人破産における資産の処分
法人破産の際に、以下の資産は、処分される可能性があります。
在庫商品等
取引先等に売却できる場合は、売却し破産費用に充てます。また、管財人に引継ぎ売却する場合もあります。
機械装置等
換価の見込みがある場合には、処分見込み額を計算します。申立て前に換価し破産費用に充てるか、管財人に引継ぎます。
自動車等の車両運搬具
処分見込み額を計算します。こちらも申立て前に換価し破産費用に充てるか、管財人に引継ぎます。
法人破産における債権の処理
法人破産の際に、以下の債権は、申立前に回収し破産費用に充てたり、管財人に任せて回収することになります。
売掛金
回収見込みのある売掛金の合計額を計算します。実務では、申立て前に回収できるものは回収し、破産費用に充てることが多いです。
貸付金
すべての貸付金の回収見込み額の合計額を計算します。
法人破産における契約関係
法人破産の際に、破産会社が結んでいる契約は、できる限り、申立前に契約を解除した方がよいでしょう。
例えば、複合機をはじめとしたリース会社との契約や法人事業所の賃貸借契約、電気等継続的供給契約、その他取引先との契約などの契約関係につき、原則として解約する必要があります。
もっとも、事業所において債権の回収等の清算業務作業が引き続きある場合には、それらの作業が完了するまでの間、複合機等のリース契約、賃貸借契約、電気等を利用しなければならないこともあります。そのような場合には、事務所を使用するにあたって必要となる契約は、その分料金を支払うことになりますが解約しなくてもよいでしょう。
最終的には、破産管財人が当該契約を解約します。
法人破産における従業員対応
法人破産の際には、以下のような従業員対応が必要となります。
1 従業員の解雇関係
(1) 解雇について
従業員を解雇すべきか、残ってもらう必要があるかどうかについては、残務処理や事業停止の時期等によって判断します。実務では、経理関係がわかる人だけを残して他の従業員は全て解雇することが多いです。もっとも、取締役で経理関係がわかる人がいる場合は、あえて従業員に残ってもらう必要はありません。
解雇予告手当を支払う資金がある場合は、解雇予告手当を支払って即日解雇します。
(2) 労働関係の手続き
・源泉徴収票の交付
従業員が再就職先で年末調整を行う場合や、後日確定申告を行う場合には、源泉徴収票が必要となります。解雇と同時に交付できない場合もできるだけ早く交付できるように作成しておきます。
・離職票の交付
離職票は、会社がハローワークに雇用保険被保険者離職証明書、雇用保険被保険者資格喪失書を提出すると、ハローワークから会社に対して交付されます。従業員はハローワークに離職票を提出すると失業保険が受給できます。
・住民税の異動届の提出
住民税を特別徴収(会社が給与から天引きし各市区町村に納税する)にしている場合は、特別徴収から普通徴収(従業員が市区町村に直接納付する)に切り替える必要があるため、各市区町村に異動届を提出します。
・資格喪失届の提出
従業員は、社会保険から国民健康保険へ、厚生年金から国民年金に切り替える必要があるため、資格喪失届を年金事務所に提出します。
2 労働債権について
(1) 未払給与の取扱い
未払給与は、財団債権や優先的破産債権となり、他の一般破産債権より優先して弁済されることになります。未払給与の発生時期によって財団債権に組み込まれる場合と優先的破産債権となる場合があります。
①破産手続開始前3か月間
財団債権となります。財団債権とは、特に保護する必要がある債権のことを言い、一般の債権である破産債権とは別に扱われる債権をいいます。破産債権は、財団債権への弁済が終わった後、配当手続において、優先順位や債権額に応じた額の弁済を受けるのに対し、財団債権は、配当に先立って支払われることになります。
② 破産手続開始前3か月間よりも前
優先的破産債権となります。優先的破産債権とは、財団債権とは異なり、配当に先立って支払われることはありませんが、配当手続において優先的に支払われる債権です。
(2) 解雇予告手当
解雇予告手当の支払なしに即日解雇した場合は、解雇予告手当が未払いということになります。解雇予告手当は、財団債権として扱うことを認める運用がなされていますが、財団債権としては扱わず、優先的破産債権として扱っている裁判所もあります。
なお、解雇予告手当には後述する未払賃金立替払制度の対象とならないため、その点も注意する必要があります。
(3) 退職金の取扱い
退職金の位置付けとして、会社に退職金の支払い基準等を定めた規定が存在しなければ、退職金は発生しません。退職金規定がないのに、会社の資産から経営者の判断で従業員に対し退職金を支給することはできません。
退職金の規定がある場合には、未払退職金は、未払給与と同様に財団債権や優先的破産債権となり、他の一般破産債権より優先して弁済されることになります。
(4) 未払賃金立替払制度
従業員の給料にあてる資産がない場合は、未払賃金立替払制度が利用できます。
未払賃金立替払制度とは、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づくもので、会社が倒産して賃金が支払われないまま退職することになった従業員に対し、独立行政法人労働者健康安全機構が未払賃金を一定の範囲について立替払いしてくれる制度のことです。
未払賃金総額のうち最大8割が支払われますが、従業員の年齢に応じて限度額があります。未払賃金総額の8割までは確実に支払ってもらえるわけではないので注意が必要です。
法人破産における債権者対応
法人破産の際には、以下のような債権者対応が必要となります。
1 債権者からの問い合わせ対応
受任通知を送付後に債権者から電話等で問い合わせがくることが多いでしょう。債権者が一番聞きたいことは、配当に関することだと思いますが、配当があるかどうかについては、正確な債権額が確定後、破産管財人による換価状況次第であるため、現状ではわかりかねる旨を回答します。安易に配当可能性があると伝えてしまうと後々問題になりやすいため、慎重に回答すべきです。
その他、破産に至った経緯や原因については簡単に説明しても構いません。今後の流れについては説明しても構わないでしょう。
2 債権者のための説明会の開催
法人破産をする場合において、破産手続きの前に債権者のための説明会を開催することは稀であり、説明会を開かなければいけない義務もありません。通常は債権者ごとに個別の問い合わせ対応をすることで足りることが多いです。
債権者が多数いる事案で問い合わせが殺到することが予想される場合には、債権者に対し、説明会を開催しても良いですが、できれば、一早く法人破産の申し立てをして、裁判所の手続に乗せ、破産管財人に対応を任せるべきでしょう。
法人破産のその他特殊状況
法人破産の際に考えられる特殊な状況としては以下のとおりです。
1 破産会社が裁判をされている場合
継続中の訴訟等がある場合には、事件番号、事件名等を確認し、申立書に記載します。可能であればこちらも弁護士が代理人となって、相手方と和解できるよう交渉します。
2 偏頗弁済がある場合
偏頗弁済とは、簡単に言いますと破産手続き中に特定の債権者だけに返済することです。よくあるのが、破産手続き中にも関わらず、親族や友人への借金の弁済だけしてしまうことです。親族や友人も一般債権者と同じ扱いになりますので、特定の債権者のみに優遇するような弁済を行うことは禁止されています。偏頗弁済を行うと、破産管財人から否認権を行使され、当該弁済が否認され、弁済を受けた親族や友人は受領した金銭を取り戻される場合があります。
3 監督官庁、許認可がある場合
監督官庁、許認可等があればそれを確認します。廃業等の届出が必要であれば届出ます。
4 産業廃棄物等がある場合
会社の所有している土地に産業廃棄物等があるか否かを確認します。産業廃棄物等が存在する場合には申立書に記載します。
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